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*とわの彼方に シリーズ*1
修羅場ばった───。
22年生きてきた中で、修羅場なんて、これが始めて。
優しいコイビトがいて、気の合う友達がいて。
やりがいのある仕事に付いて、毎日が忙しいながらも充実してて。
挫折も躓きも知らない。
私の人生は順風満帆だ───なんて思ってた。
今日、この時までは。
そういえば。
今朝の星座占いランキング、牡牛座は最下位だった。
人間関係の危機。水の事故に気をつけろ、って。
爽やかな笑顔を振りまきながら、新人アナウンサーが言ってたっけ。
“絶対ポジティブ”がモットーな私は、占いなんてほとんど信じない。
いいところだけ聞いて、あとは右から左へポイ。
だから今日だって、占いの内容なんかよりも、アナウンサーの着ているMICHEL KLEINの新作の秋物ニットがカワイイな、なんて。
呑気に構えてたっていうのに。
ちゃんと信じて用心していれば、これも回避できたんだろうか。
今度からはバカにしないで、ちゃんと聞いてみよう、と。
こんな時でも冷静に分析する自分がいるなんて。
ちょっと意外。
実際、腹の奥は煮えくり返ってるっていうのに。
「彼に、近づかないでください…っ」
私の目の前で小さな肩を震わせているのは、セーラー服に身を包んだ女子高生。
ほろほろと流す大粒の涙が、頬で光ってる。
場所を間違えた。
こんなことになるのなら、どこか人目のつかない公園か、路地裏でも十分だ。
お気に入りのカフェ。
大好きな雑貨に囲まれて癒しの時間。
入れたてのほろ苦エスプレッソと、ふわふわのバニラシフォン。
もう来れなくなっちゃったじゃないの。
目の前の彼女を軽く睨みつけた。
「ヒサン〜」
「かわいそー」
私と彼女を見る目が痛い。
ひそひそと声をひそめて、聞こえてないとでも思ってんの?
そりゃそうだよ。悲惨ですよ、私。
オトコのことで修羅場って、コップの水をぶっ掛けられて。
浮気?二股?
そんなトラブル、私には無関係だと思ってた。
彼と私は自他共に認める仲のいい恋人同士で。
このまま順調に愛を育んで、ゴールインするんだって。
おめでたい人生設計まで、出来上がってたっていうのに。
それを突然現れた女子高生に、現実叩きつけられて。
突き落とされて。
私は今、不幸のどん底だ。
それなのに悪いのは全部、私───みたいな目で見られる。
休日返上で、職場の研修会に参加させられた帰り道。
鳴り響く携帯の着信は、知らない番号。
不審に思ってでてみれば「私、タケルの彼女です。話したいことがあるので、会ってもらえませんか?」
なんて。
心の準備もないままに呼び出されて。
私は研修帰りのリクルートスーツ。彼女はセーラー服。
どう見たっていい年をした大人が、いたいけな女子高生を泣かせてる図にしか見えないじゃないの。
休みの日なのに制服で現れたのは、それが目的?
自分を守るための防護服。
若さと、未成年という武器を振りかざして。
純情?可哀相?
人のオトコに手を出しておいて、挙句の果てに自分は悪くない、と。
涙を流して悲劇のヒロインでも演じてるつもり?
ふざけんな。
涙の向こうは、女の炎がぎらぎらしてるっていうのに。
可哀相なのは私だ。
こんなの、漫画やドラマの世界だけだと思ってた。
経験の積み重ねが人を成長させるなんていうけれど、できれば経験なんてしたくなかった。こんなこと。
間違いなく私の人生の中で。
思い出したくもない出来事、ナンバーワンに輝くと思う。
「タケルと別れてください。私には、彼しかいないんです。彼を盗らないで…」
ほろほろと大粒の涙を流しながら俯く姿は、はっきりいって嫌味にしか見えない。
わざとらしい。
泣けばすむってものでもないでしょ。
泣きたいのは、私だ。
タケル、っていうのは私のカレシ。
今年、N大の4回生になる。
彼は高校時代のクラスメイトで。卒業間直に告られて、付き合って。
卒業後の進路は別々だったけれど、これまでうまくやってきた。
一年前にひと足先に短大を卒業した私は、社会人になって、ひとり暮らしを始めて。
新しい愛の巣に、大好きな彼とのこれからの未来を思い描いていたっていうのに。
大きなため息と共に、未来予想図がガラガラと崩れ落ちた。
ドリカムなんて、二度と聴くもんか。
*
私は店を出て、その足でタケルを呼び出した。
サークルがあるとか何とか、言い訳をつけて断ろうとするアイツを脅して。
大学近くの公園で会う約束を取り付けた。
緑豊かな芝生広場が自慢の公園は、休日ともなるとカップルや家族連れで大賑わい。
四季折々の花が所狭しと花壇を彩り、カメラや画材を片手にした芸術家が絶えない憩いのスポット。
タケルとも、よくここで待ち合わせをしてお弁当を広げたっけ。
現実を突きつけられた今も、そんな虚しい彼との思い出に涙ぐみそうになる。
いけない。
ぐっと肘で涙をぬぐって、雨上がりの空を見上げた。
空はどんより曇っていて、雲の切れ間にほんの少しだけ青が見えた。
こういう話は一秒でも間を開けちゃ、いけないんだ。
うやむやになっちゃう。
キライで別れるわけじゃない。
時間が経てば経つほど、情に流されてしまう可能性が大きいから。
雨上がりでよかった。
いつもは行きかう人で溢れる公園への道も、人がまばらだ。
あの子に水をぶっ掛けられて、服が濡れているのも。
乾いた涙の跡も。
雨に濡れた───って、言い訳ができる。
タケルは数十分もしないうちにやってきた。
プーマのハーフパンツに、薄汚れたサッカー用のスパイク、サークルのスタジャンを羽織って。
サークル活動中だっていうのは、嘘じゃなかった。
少し、救われた気分になる。
「何だよ、急に」
私に向ける笑顔は相変わらず無邪気で、気持ちが大きく揺らいだ。
このまま胸に抱きついて、全部なかったことにしてしまえれば、どんなに楽だろう。
全部、夢だったらいいのに。
そう思ったら目の奥が、じんと熱くなった。
それを奮い立たせて、話を切り出す。
ホントは彼女のことなんて、口にも出したくなかったけれど。
はじめはとぼけていたタケルも、カマをかけて揺さぶったら簡単に堕ちた。
隠し事や嘘が苦手だってことぐらい、知ってる。
だから、なおさら。
二股?浮気?
違う。
彼は、本気だ。
初めはほんの出来心でも、それは次第に本気になった。
嘘や隠し事の苦手な彼が、嘘をついてまで貫き通したもうひとつの恋。
優しくて、情の深いタケルだから。
彼女に本気を感じながらも、長く付き合ってきた私を切れなかった。
そんなこと、お見通しだよタケル。
でもそれは、優しさではないことに気付けないアンタは、やっぱりバカだ。
幸せに溺れて、彼の微妙な心の変化に気付けなかった私は。
もっと、バカだ───。
「別れよう」
切り出したのは、私。
「私にだって、タケルの他にもいいオトコがいるんだから」
笑って言ってやった。
そんな男の影なんて、カケラもないのに。
一瞬、動揺の色を漂わせたタケルが、大きなため息を零した。
「…そっか…」
なんて。
そんな悲しそうな顔、見せないでよ。
雨上がりの空に、携帯の着信音が鳴り響く。
それは私とタケルの間に割って入り、いつまでも耳障りに鼓膜の奥を揺らす。
「出れば?カノジョじゃないの?」
鳴り止まない音に、ふとよぎったのはセーラー服。
「…あ〜…」
と、困ったように視線を泳がせた後。
「ごめん」
短く告げて、スタジャンのポケットから携帯を取り出した。
最後ぐらい、綺麗に別れたかったのに。
最後ぐらい、ふたりきりでいたかったのに。
タケルとは、これが、最後なのに───。
背中ごしに。
途切れ途切れに聴こえてくる、会話の内容。
「寧々(ねね)…」
私以外の女の子を、そんな風に呼ぶタケルの声を。
初めて聞いた。
胸の奥が、抉り出されるような気がした。
あの女子高生は、ねねちゃんっていうんだ。
名前まで若くて、カワイイ。
きっと電話の向こうでほろほろと大粒の涙を流して、携帯ごしのタケルの声に耳を傾けているのだろう。
「───貸して」
気がつけばタケルから携帯を奪って。
「もう、タケルとは別れたから。だから、あとは好きにやって」
電話の向こうに、冷たい言葉を吐き出す自分がそこにいた。
『え、え…っ』
と、受話器の向こうで戸惑う声が聞こえたけれど。
それを無視して通話を遮断した。
驚きを隠せないタケルに、ニコリと笑顔を振りまいて。
手にした携帯を膝の上で、折った。
簡単に真っ二つに折れた、携帯電話。
まるで、今の私と彼だ。
「いらないでしょ。携帯。どうせ会いに行くんだから」
それをタケルの手に返す。
ひどい女。
そう思われて、結構。
大好きだったから。
私を傷つけた───って、いつまでも引きずって欲しくないから。
こんな思いは私だけで十分だから。
だから。
「───ばいばい、タケル」
私は自分の恋に、自分でピリオドを打った。
*
部屋に駆け込んだ私は、研修の書類も放りだして。
スーツがしわくちゃになるのも構わず。
勢いよく、ベッドにダイブした。
「…ちきしょー」
悪態をついて、ごろんと仰向けに転がったら見上げた天井がゆらりと歪んだ。
今頃になって泣けてきた。
のそのそと体を引きずって、私は備え付けの冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。
プシュッとプルの抜ける気持ちのいい音がして、一気にそれを煽った。
昼間からヤケ酒なんて、バカみたい。
でも、そうでもしないとやってらんない…っ。
足元の布団を引き寄せて、頭から被った。
落ち込む時には、寝てしまえ。
明日になれば、明日の道が見えてくる。
浮気なら、まだよかった。
本気だから、辛い───。
見栄も意地もプライドも捨てて、泣いてすがればよかったのかもしれない。
行かないで、って。
私にはタケルしかいないんだよ、って。
情の深いタケルだから、少しは迷ってくれたかもしれない。
もしかしたら、彼女よりも私を選んでくれたかもしれないのに。
でも。
重い、って思われたくなかった。
なりふり構わず店の中でも泣けるセーラー服の彼女みたいに。
私はかっこ悪くなれない。
引き際をかっこよくみせたかった、だなんて。
バカだ、私───。
ひとりの休日がこんなにも寂しいものだなんて、思いもしなかった。
(END/見栄より意地よりプライドよりも)
NEXT*シリーズ2→
(お題提供*「1141」 七瀬はち乃様)
修羅場ばった───。
22年生きてきた中で、修羅場なんて、これが始めて。
優しいコイビトがいて、気の合う友達がいて。
やりがいのある仕事に付いて、毎日が忙しいながらも充実してて。
挫折も躓きも知らない。
私の人生は順風満帆だ───なんて思ってた。
今日、この時までは。
そういえば。
今朝の星座占いランキング、牡牛座は最下位だった。
人間関係の危機。水の事故に気をつけろ、って。
爽やかな笑顔を振りまきながら、新人アナウンサーが言ってたっけ。
“絶対ポジティブ”がモットーな私は、占いなんてほとんど信じない。
いいところだけ聞いて、あとは右から左へポイ。
だから今日だって、占いの内容なんかよりも、アナウンサーの着ているMICHEL KLEINの新作の秋物ニットがカワイイな、なんて。
呑気に構えてたっていうのに。
ちゃんと信じて用心していれば、これも回避できたんだろうか。
今度からはバカにしないで、ちゃんと聞いてみよう、と。
こんな時でも冷静に分析する自分がいるなんて。
ちょっと意外。
実際、腹の奥は煮えくり返ってるっていうのに。
「彼に、近づかないでください…っ」
私の目の前で小さな肩を震わせているのは、セーラー服に身を包んだ女子高生。
ほろほろと流す大粒の涙が、頬で光ってる。
場所を間違えた。
こんなことになるのなら、どこか人目のつかない公園か、路地裏でも十分だ。
お気に入りのカフェ。
大好きな雑貨に囲まれて癒しの時間。
入れたてのほろ苦エスプレッソと、ふわふわのバニラシフォン。
もう来れなくなっちゃったじゃないの。
目の前の彼女を軽く睨みつけた。
「ヒサン〜」
「かわいそー」
私と彼女を見る目が痛い。
ひそひそと声をひそめて、聞こえてないとでも思ってんの?
そりゃそうだよ。悲惨ですよ、私。
オトコのことで修羅場って、コップの水をぶっ掛けられて。
浮気?二股?
そんなトラブル、私には無関係だと思ってた。
彼と私は自他共に認める仲のいい恋人同士で。
このまま順調に愛を育んで、ゴールインするんだって。
おめでたい人生設計まで、出来上がってたっていうのに。
それを突然現れた女子高生に、現実叩きつけられて。
突き落とされて。
私は今、不幸のどん底だ。
それなのに悪いのは全部、私───みたいな目で見られる。
休日返上で、職場の研修会に参加させられた帰り道。
鳴り響く携帯の着信は、知らない番号。
不審に思ってでてみれば「私、タケルの彼女です。話したいことがあるので、会ってもらえませんか?」
なんて。
心の準備もないままに呼び出されて。
私は研修帰りのリクルートスーツ。彼女はセーラー服。
どう見たっていい年をした大人が、いたいけな女子高生を泣かせてる図にしか見えないじゃないの。
休みの日なのに制服で現れたのは、それが目的?
自分を守るための防護服。
若さと、未成年という武器を振りかざして。
純情?可哀相?
人のオトコに手を出しておいて、挙句の果てに自分は悪くない、と。
涙を流して悲劇のヒロインでも演じてるつもり?
ふざけんな。
涙の向こうは、女の炎がぎらぎらしてるっていうのに。
可哀相なのは私だ。
こんなの、漫画やドラマの世界だけだと思ってた。
経験の積み重ねが人を成長させるなんていうけれど、できれば経験なんてしたくなかった。こんなこと。
間違いなく私の人生の中で。
思い出したくもない出来事、ナンバーワンに輝くと思う。
「タケルと別れてください。私には、彼しかいないんです。彼を盗らないで…」
ほろほろと大粒の涙を流しながら俯く姿は、はっきりいって嫌味にしか見えない。
わざとらしい。
泣けばすむってものでもないでしょ。
泣きたいのは、私だ。
タケル、っていうのは私のカレシ。
今年、N大の4回生になる。
彼は高校時代のクラスメイトで。卒業間直に告られて、付き合って。
卒業後の進路は別々だったけれど、これまでうまくやってきた。
一年前にひと足先に短大を卒業した私は、社会人になって、ひとり暮らしを始めて。
新しい愛の巣に、大好きな彼とのこれからの未来を思い描いていたっていうのに。
大きなため息と共に、未来予想図がガラガラと崩れ落ちた。
ドリカムなんて、二度と聴くもんか。
*
私は店を出て、その足でタケルを呼び出した。
サークルがあるとか何とか、言い訳をつけて断ろうとするアイツを脅して。
大学近くの公園で会う約束を取り付けた。
緑豊かな芝生広場が自慢の公園は、休日ともなるとカップルや家族連れで大賑わい。
四季折々の花が所狭しと花壇を彩り、カメラや画材を片手にした芸術家が絶えない憩いのスポット。
タケルとも、よくここで待ち合わせをしてお弁当を広げたっけ。
現実を突きつけられた今も、そんな虚しい彼との思い出に涙ぐみそうになる。
いけない。
ぐっと肘で涙をぬぐって、雨上がりの空を見上げた。
空はどんより曇っていて、雲の切れ間にほんの少しだけ青が見えた。
こういう話は一秒でも間を開けちゃ、いけないんだ。
うやむやになっちゃう。
キライで別れるわけじゃない。
時間が経てば経つほど、情に流されてしまう可能性が大きいから。
雨上がりでよかった。
いつもは行きかう人で溢れる公園への道も、人がまばらだ。
あの子に水をぶっ掛けられて、服が濡れているのも。
乾いた涙の跡も。
雨に濡れた───って、言い訳ができる。
タケルは数十分もしないうちにやってきた。
プーマのハーフパンツに、薄汚れたサッカー用のスパイク、サークルのスタジャンを羽織って。
サークル活動中だっていうのは、嘘じゃなかった。
少し、救われた気分になる。
「何だよ、急に」
私に向ける笑顔は相変わらず無邪気で、気持ちが大きく揺らいだ。
このまま胸に抱きついて、全部なかったことにしてしまえれば、どんなに楽だろう。
全部、夢だったらいいのに。
そう思ったら目の奥が、じんと熱くなった。
それを奮い立たせて、話を切り出す。
ホントは彼女のことなんて、口にも出したくなかったけれど。
はじめはとぼけていたタケルも、カマをかけて揺さぶったら簡単に堕ちた。
隠し事や嘘が苦手だってことぐらい、知ってる。
だから、なおさら。
二股?浮気?
違う。
彼は、本気だ。
初めはほんの出来心でも、それは次第に本気になった。
嘘や隠し事の苦手な彼が、嘘をついてまで貫き通したもうひとつの恋。
優しくて、情の深いタケルだから。
彼女に本気を感じながらも、長く付き合ってきた私を切れなかった。
そんなこと、お見通しだよタケル。
でもそれは、優しさではないことに気付けないアンタは、やっぱりバカだ。
幸せに溺れて、彼の微妙な心の変化に気付けなかった私は。
もっと、バカだ───。
「別れよう」
切り出したのは、私。
「私にだって、タケルの他にもいいオトコがいるんだから」
笑って言ってやった。
そんな男の影なんて、カケラもないのに。
一瞬、動揺の色を漂わせたタケルが、大きなため息を零した。
「…そっか…」
なんて。
そんな悲しそうな顔、見せないでよ。
雨上がりの空に、携帯の着信音が鳴り響く。
それは私とタケルの間に割って入り、いつまでも耳障りに鼓膜の奥を揺らす。
「出れば?カノジョじゃないの?」
鳴り止まない音に、ふとよぎったのはセーラー服。
「…あ〜…」
と、困ったように視線を泳がせた後。
「ごめん」
短く告げて、スタジャンのポケットから携帯を取り出した。
最後ぐらい、綺麗に別れたかったのに。
最後ぐらい、ふたりきりでいたかったのに。
タケルとは、これが、最後なのに───。
背中ごしに。
途切れ途切れに聴こえてくる、会話の内容。
「寧々(ねね)…」
私以外の女の子を、そんな風に呼ぶタケルの声を。
初めて聞いた。
胸の奥が、抉り出されるような気がした。
あの女子高生は、ねねちゃんっていうんだ。
名前まで若くて、カワイイ。
きっと電話の向こうでほろほろと大粒の涙を流して、携帯ごしのタケルの声に耳を傾けているのだろう。
「───貸して」
気がつけばタケルから携帯を奪って。
「もう、タケルとは別れたから。だから、あとは好きにやって」
電話の向こうに、冷たい言葉を吐き出す自分がそこにいた。
『え、え…っ』
と、受話器の向こうで戸惑う声が聞こえたけれど。
それを無視して通話を遮断した。
驚きを隠せないタケルに、ニコリと笑顔を振りまいて。
手にした携帯を膝の上で、折った。
簡単に真っ二つに折れた、携帯電話。
まるで、今の私と彼だ。
「いらないでしょ。携帯。どうせ会いに行くんだから」
それをタケルの手に返す。
ひどい女。
そう思われて、結構。
大好きだったから。
私を傷つけた───って、いつまでも引きずって欲しくないから。
こんな思いは私だけで十分だから。
だから。
「───ばいばい、タケル」
私は自分の恋に、自分でピリオドを打った。
*
部屋に駆け込んだ私は、研修の書類も放りだして。
スーツがしわくちゃになるのも構わず。
勢いよく、ベッドにダイブした。
「…ちきしょー」
悪態をついて、ごろんと仰向けに転がったら見上げた天井がゆらりと歪んだ。
今頃になって泣けてきた。
のそのそと体を引きずって、私は備え付けの冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。
プシュッとプルの抜ける気持ちのいい音がして、一気にそれを煽った。
昼間からヤケ酒なんて、バカみたい。
でも、そうでもしないとやってらんない…っ。
足元の布団を引き寄せて、頭から被った。
落ち込む時には、寝てしまえ。
明日になれば、明日の道が見えてくる。
浮気なら、まだよかった。
本気だから、辛い───。
見栄も意地もプライドも捨てて、泣いてすがればよかったのかもしれない。
行かないで、って。
私にはタケルしかいないんだよ、って。
情の深いタケルだから、少しは迷ってくれたかもしれない。
もしかしたら、彼女よりも私を選んでくれたかもしれないのに。
でも。
重い、って思われたくなかった。
なりふり構わず店の中でも泣けるセーラー服の彼女みたいに。
私はかっこ悪くなれない。
引き際をかっこよくみせたかった、だなんて。
バカだ、私───。
ひとりの休日がこんなにも寂しいものだなんて、思いもしなかった。
(END/見栄より意地よりプライドよりも)
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(お題提供*「1141」 七瀬はち乃様)
2007.10.30 ▲
史間
こんばんは!
ロボ押しましたよ!
ジェイサイドのお話は…なるほど〜と(笑)
大人に見えたのは気のせいだったんですねぇ。どこまで我慢できるのか♪
お題短編ですね!
しかし、この短編は痛いです!リアルですから><
私も別れ際に強がったことがあります。たぶん、笑顔が引きつってましたけど(苦笑)失恋の痛みは、なんどくらっても慣れないもんですね。
切ないお話、有難うございました。
あ。携帯は、折られたことあります!(何!?
ロボ押しましたよ!
ジェイサイドのお話は…なるほど〜と(笑)
大人に見えたのは気のせいだったんですねぇ。どこまで我慢できるのか♪
お題短編ですね!
しかし、この短編は痛いです!リアルですから><
私も別れ際に強がったことがあります。たぶん、笑顔が引きつってましたけど(苦笑)失恋の痛みは、なんどくらっても慣れないもんですね。
切ないお話、有難うございました。
あ。携帯は、折られたことあります!(何!?
りくそらた
いらっしゃいませ!
ロボ、発見しましたか!分かる人にはわかる、微妙な入り口です(笑)おはなしがもう少し溜まれば、ちゃんとわかるような入り口に変えようと思ってます。見つけてくれてありがとう(笑)
ジェイ、は我慢のオトコです。書いていて楽しかった〜。女の子は思われてなんぼ、だと思っているので、こういう心の葛藤を書くのは大好きです(←イジワル・・・
お題小説は、痛いですよね〜。リアルです。
史間さんも自分のブログでおっしゃられていましたが、何らかの形で実体験が折り込まれてしまうんですよね。間違いなく、抹消したい思い出ナンバーワンだ。
携帯、折られたことあります?ふふ。私もです(苦笑)
アレ。悲惨ですよね。
ロボ、発見しましたか!分かる人にはわかる、微妙な入り口です(笑)おはなしがもう少し溜まれば、ちゃんとわかるような入り口に変えようと思ってます。見つけてくれてありがとう(笑)
ジェイ、は我慢のオトコです。書いていて楽しかった〜。女の子は思われてなんぼ、だと思っているので、こういう心の葛藤を書くのは大好きです(←イジワル・・・
お題小説は、痛いですよね〜。リアルです。
史間さんも自分のブログでおっしゃられていましたが、何らかの形で実体験が折り込まれてしまうんですよね。間違いなく、抹消したい思い出ナンバーワンだ。
携帯、折られたことあります?ふふ。私もです(苦笑)
アレ。悲惨ですよね。
中出綸子
ご訪問ありがとうございました。
私、最初に伺った時にコメントをしたかったのですが、時間がなくてまた改めて・・と思っていたところでした。
なので先にコメント頂戴して、とても嬉しかったです。
描写と作風がなんだか心地良く、共感できました。リアルな感じが巧いなぁって。私もまた読みに伺います。
私、最初に伺った時にコメントをしたかったのですが、時間がなくてまた改めて・・と思っていたところでした。
なので先にコメント頂戴して、とても嬉しかったです。
描写と作風がなんだか心地良く、共感できました。リアルな感じが巧いなぁって。私もまた読みに伺います。
りくそらた
コメントをありがとうございます。
嬉しいお言葉をいただけて、嬉しいやらくすぐったいやら…。共感していただけて光栄です。
中出さんの作品、大好きです。ああ、こんな風に書きたいな。こんなふうな表現ができたらな…と思う要素が、たくさん散りばめられていて、勉強になります。私が目指す理想のカタチ。
足跡に感謝です!
嬉しいお言葉をいただけて、嬉しいやらくすぐったいやら…。共感していただけて光栄です。
中出さんの作品、大好きです。ああ、こんな風に書きたいな。こんなふうな表現ができたらな…と思う要素が、たくさん散りばめられていて、勉強になります。私が目指す理想のカタチ。
足跡に感謝です!
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